人間の体は常に熱を発しています。朝ごはんで食べたシリアルや、数日前に食べ過ぎてしまった焼き肉。これらの食物は身体の内部に貯蔵されたり、糖に変換され生きていく為に必要なエネルギーになります。
一日の基礎代謝を電気換算してみると
このエネルギーについてですが、一般的にcal(カロリー)で表されます。このカロリーってどれくらいの熱量なのか身の回りの家電でイメージしてもらえるように計算してみました。
成人男性の基礎代謝はおよそ1,500kcalで、成人女性が1,200kcalと言われています。
プロパンガス消費者センターによると、1kw=860kcalということですが、これによると…
1,500kcal÷860=1.744
約、1.7kwhということになります。
身近な家電で言えば、電気ヒーター
電気ヒーターは1200ワット前後なので、1日の基礎代謝だけで電気ヒーターの最大運転1時間20分
プロパンガス消費者センター
1kwをkcalで表すと860kcalとなります。
これだけの熱量を放出していることになりますが、それでも海水の温度は体温より10度ほど低く、かつ空気より水の方が体温を多く奪っていきます。また、気化熱でも多くの熱を奪っていきます。
仮に海水の温度が15度~20度近くの場合、3時間程度で低体温症により死亡するリスクがあります。
また海水温が18度以下になった際の大会中止のガイドラインがあります。前述したとおり、20度以下では3時間程度で低体温症による死亡するリスクがあるという事実を踏まえると体温調整というものは安全にオープンウォータースイミングに挑むために必要な要素になります。
体温低下で運動パフォーマンス低下
エネルギーが発生するメカニズムは、体細胞内の化学反応です。この化学反応は体温の低下により鈍くなっていきます。
具体的には、体温が下がると生存する為に必要な心臓や脳などの重要な臓器に血液を集中させようとするので、体表温度が下がり体温が更に低下する現象がおきます。
また体温が低下すると、エネルギーの発生が鈍くなるので筋肉に力が入らなくなってきます。
結果的に体温管理は、オープンウォータースイミングで安全に完泳するためだけではなく、より早く完泳したいと願う方にも共通で必要な要素です。
体温管理~ウェットスーツ~
オープンウォータースイミングは短いものでは500メートル程度からありますが、1km~10km時間にして長いものは2時間程度泳ぐことになります。
これだけの時間海水に使っていると、運動による体温上昇以上に体温が奪われることが考えられます。
水温調整が可能なプールと違い、海水温度は季節や、天気によって左右されてしまいます。
そこで提案するのが、ウェットスーツ。
ウェットスーツは、スーツ内に侵入した水が体温によって温められて保温されるという仕組みになっています。
ウェットスーツは、季節によって素材の暑さを変更する必要があり。夏場に、冬の厚さのウェットスーツを着用するとかえって熱中症のリスクがありますので、季節に合ったウェットスーツを用意しましょう。ただし…
ウェットスーツ禁止の大会が多い…
実際にウェットスーツ着用は、禁止されている大会が多いのも事実、また着用が認められているものの入賞出来ないなどの成約もあります。
オープンウォータースイミングに求めるものが、より早く、そして入賞することを目指しているということになるとウェットスーツの着用は難しくなってくると思います。
練習着としは優秀ですが、実際の大会では利用できないとなると、どうやって体温調整をしたらいいのか悩んでしまいますよね。
体温管理~スイムキャップ~
体温管理をする上で、ウェットスーツの着用が難しい場合にはスイムキャップという手があります。
スイムキャップ、頭だけ保温して何の意味がある?と疑問を持った方もいらっしゃると思いますが、スイムキャップに関する論文も出ているので、論文を元にスイムキャップについて触れていきます。
別府溝部学園短期大学と長崎大学の共同研究で、スイムキャップの素材が水泳時の体温調整反応に及ぼす影響についての論文が発表されています。
この研究では、日頃から十分にトレーニングを行っている男性の大学水泳選手10名を被験者として、防水性の高いシリコンスイムキャップと、防水性のないメッシュスイムキャップを着用して泳いだ際の体温について言及しています。
全額部の表面温度(Tfh)と後頭部温(Toc)は、運動中いずれもSC群のほうが有意に高かった。また、運動中の温度変化については、TfhはSC群、MC群ともに運動開始5分までは低下したが、その後、それぞれ上昇に転じ、その上昇は運動終了まで続いた。運動中の鼓膜温と食堂音の関係は、頭部に何も着用しないときは、運動の経過とともに食道温が上昇し鼓膜温との差が広がる。しかし、ヘッドギアを着用することでその差が見られなくなり、ヘッドギアが鼓膜温の上昇に影響を与えることが示されている。
デサントスポーツ科学:スイムキャップの素材が水泳時の体温調整機能に及ぼす影響
論文では、運動開始の5分間は体温が低下したもののそれ以降については、体温が上昇したという状態から始まり、温度上昇をシリコンキャップとメッシュキャップでの温度上昇を記録し動向を伺いました。
はじめの5分間は、プールの水温によって体温が奪われている状態です。しかし、この実験では温度管理がされたプールにおける研究です。
身体から発散される熱量が水温を上回り熱放散が間に合わなくなったのだと思われます。また防水性のキャップ(シリコンキャップ)には、頭部の熱放散を妨げ保温する動きがあるとまとめられています。
研究の結論としてシリコンキャップは高温の環境では望ましくないというものではありますが、逆説的ですが温度が低い環境ではシリコンキャップを着用することで、体温を維持することができるということです。
オープンウォータースイミングの大会では、水温が18度以下で中止になりますが、19度以上では水温が低いものの大会は開催されます。
22度以下になると、ウェットスーツの着用が認められるものの、前述したとおり入賞できないという条件がつきまとってしまします。
ウェットスーツの着用ができない状況では、シリコンキャップを着用することで体温低下を抑える事ができます。
また、ラッシュガードはウェットスーツよりは大会での着用が認められるケースが多いので規約を調べラッシュガードの着用が認められているようであれば、ラッシュガードの着用も合わせて検討することをおすすめします。
一方で、温度が高めだと感じる際は、メッシュキャップを着用することで、体温上昇を防ぐことができます。
まとめ
人の体温は、電気換算すると相当な量の熱を発しています。それだけの熱をもってしても、水に浸かり続けることによる熱の放出は大きいです。夏でも低体温症になる可能性は十分にあります。
体温が低下してしまうと運動パフォーマンスが落ちてしまい、実力を最大限引き出すことができなくなってしまいます。
一方でウェットスーツの着用は多くの大会で禁止、あるいは制限されている為、スイムキャップでの体温調整が必要になります。
スイムキャップも泳ぐ時の水温によってメッシュキャップかシリコンキャップかを選択する必要があります。
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